learn japanese のこんな要素
その意味で、近代になってはじめて報告されるようになった精神分裂症は、その名称とともに近代社会の特質をあらわしている。
とりわけ、日本に分裂症の患者が多い事実は、日本社会のあり方を再検討するよう、私たちに要請しているのではないだろうか。
循環性、多様性と関係性の相互関係を考えている仲間と議論したいと考えて、スウェーデンで開かれた国際環境経済学会に赴いた。
一九九二年七月末に京都で開かれた国際平和学会に、フィリピン大学のRさんといっしょに参加し、ブレンダさんの元気な消息を聞いた。
その翌日、モスクワへ飛び一泊した。
そして、国際環境経済学会が開かれるストックホルムヘ行くため、オスロ空港で乗り換えた。
空港待合室で以前、外国人の医療のことでアドバイスを受けたノルウェー農業大学のSさんと出会い、いっしょに会場に行くことにした。
ストックホルム大学の入口で、「Nさん」と呼ぶ声がする。
振り向くと、龍谷大学に来てもらった『生命系の経済学』の著者P氏だった。
「エコロジー的なエコノミーに関する国際学会」である。
私は発足以来の会員であるが二年前の第一回国際会議には、入院していて出席できなかった。
この学会の理論的な支柱は、世界銀行の環境部門のエコノミスいであるH氏である。
二〇年前の来日時に、東京を案内したことがある。
そのレセプションでT先生に出会い、エントロピー学会の創設をお手伝いするようになった。
不思議な縁である。
今回の学会の冒頭におこなわれたT氏の報告は、循環性や多様性より関係性を強調する内容だった。
環境問題を社会経済関係のほうからとらえなおそうというのである。
最終日に、生態学者G氏のコメントを引き受けた。
名前に覚えがあった。
聞いてみると、『インド工業発達史』の著者の子息である。
西洋文化に憧れ、ヨーロッパ史専攻の大学生だった私が三年生のときに読んだインドの本である。
アジアへの目を開いてくれた本である。
一九二三年刊だが、いまだに読まれていて、毎年出版社が印税を送ってくるそうだ。
G氏は、『インドのエコロジー史』を書いたばかりなので、本を送るという。
父親の『工業発達史』から息子の「エコロジー史」にいたる七〇年間が時代の転換を示している。
父親の本で「脱亜入欧」から転換した私に、エコロジーとの新たな関係が生まれそうである。
民際学という言葉を、本書で初めて見た人も多いにちがいない。
なぜこんな新しい造語を使おうとするのか。
近代の社会科学では、人びとは無視されてきた。
その潮流に対抗して、次の時代には人びとが主体となって担う学問を築きたい、という願望をこめた用語である。
同時に、現代世界において〈国際〉という言葉がもつ、強い魔力からの解放をめざす志もこめられている。
学問に転換をうながす力の源泉は、人びとの生活である。
現代において世界の人びとは、自分たちの当事者性を深める学問を求めている。
つまり社会的な生産と交流の当事者である人びとが、人びとを研究対象とみなす専門研究や専門家に対して、肩身の狭い思いをしなくてもよいような、当事者性の学問を産み出そうとしている。
その意味で、次代の学問がめざしているのは、「一人称や二人称で語る科学」である。
西欧近代において成立した既存の科学は、特定分野の専門科学を確立するために、暗黙のうちに二つの柱を支えにしてきた。
それを過剰なまでに忠実に学ぼうとした、日本の研究も同様である。
第一は、近代国家の枠組みである。
一八世紀以降のヨーロッパの歴史的背景のもとで生まれた科学は、近代における国民国家の形成ときってもきれない関係にあった。
国家の主権(通貨)、領域(所有)、住民(労働)を、一元的かつ排他的に管理する公権力の存在が、近代の科学研究の前提であり、乗りこえることが不可能な学問上の限界でもある。
国家なくして学問なし、というような奇妙な制度がつくられてしまったのである。
主要な科学研究は、文部省であれ科学技術庁であれ、国家意志と公権力の支配下に置かれるようになった。
学問が国境に幽閉されてしまったのである。
国家の枠組みをこえる多くの問題も、すべて国家と国家との関係、すなわち国際関係論、あるいは国際経済学、多国籍企業論などとして対象化されて、はじめて社会科学の研究課題足りえた。
国という文字を欠いては表現することもできない、と考えられてきた。
自然科学は国家の保護に閉じこもり、社会科学は近代国家内部の問題を分析することと近代国家間の国際関係を解明することに、関心を集中してきた。
そして、近代国家によって制度化された公教育が、学問の専門家を産み、育て、選別し、必要な部署に配置してきた。
このシステムに適応できないものは、学問研究の主体になることが認められず、専門家ではないとして学問から排除される。
庶民は、学位のような公認の資格を持つ専門家がおこなう研究の対象物になるよりほかない、と思い込まされてきたのである。
第二は、ニュートン以来の古典物理学に、体系的な規範を求めることである。
近代の古典力学が確立した研究方法は、物体の質量と初速か与えられるとその運動を正確に記述できるので、因果律や決定論を根拠づけ、観測者と観測対象とのあいだの相互関係を研究の外部に排除できる。
人びとの暮らしとかかわりをもつことなく、専門家か安心して研究できる方法である。
古典物理学では、観測者が観測対象から独立することによって、観測対象の運動について、微分方程式の体系で記述する古典力学を完成した。
経済学も物理学と同じように、微分可能な数量の関数関係で経済現象を全部記述できれば、完成された姿だと考える。
その特徴は、観測する者とされる者とが、相互に関係をもたないことである。
つまり、調査者が、調査対象から独立して学問を築く方法である。
経済学以外の社会科学も、ニュートンの方法を採用することによって、人びとの価値体系から自由な、客観的な研究ができるとみなしてきた。
専門家にとって好都合なことには、社会問題の研究にあたって、研究者が何者であるかどのような生活経験を持つかいかなる社会活動に参加しているか問う必要も問われる根拠もなくなった。
この方法に立てば、研究の主体と研究の対象とが互いに何の関係も持たない状態こそが、既存の価値観に束縛されない、すぐれた研究成果を生み出す前提であるとされる。
当事者の参加を認めない方法には、表面的な観察しかできないという限界がある。
それを克服するには、専門の細分化を進めるよりほかない。
そればかりではない。
当事者を研究から排除し、事象の全体とは無縁な専門家が優位になるには専門の細分化が進展することがなによりも有効である。
近代社会では、科学研究の専門の細分化が極度に進み、学会が無限に分割されてゆく。
このふたつの柱は、近代における社会科学研究に、疑いもなく巨大な成果をもたらした。
その結果、諸学の専門が細分化することは、いまや人間の知的営み全体に敵対するところまで進展してきた。
木を見て森を見ない部分知は相互の関連をもたないため、いくら多く集めても全体像を描けない。
無理に描いても、特定の部分だけが強調されると、全体か見失われたり、ゆがんだりする。
あらゆる学問において、観測者と観測対象との関係が、主要な研究課題たらざるをえない現実が生まれつつある。
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